案件の概要
医療機器メーカー(架空)の主力ユニットに組み込まれる SUS316 製の精密シャフトと板金ハウジングの量産案件。月産 50〜100 台のロットを、当社で材料調達〜加工〜組立〜検査〜出荷管理まで一気通貫で受け持ちました。
ご相談当初の課題
当初、クライアント様は精密加工・板金加工をそれぞれ別の協力会社に発注し、組立は社内で行っておられました。量産規模の拡大に伴い、調達フローと品質保証の両面で次のような課題を抱えておられました。
1工程分散による移動・滞留と整合性チェックの工数
精密シャフトは A 社、板金ハウジングは B 社、追加治具は C 社に分散発注されており、それぞれの納期がずれ込むたびに自社の組立工程が止まる状況。さらに、各社の出荷検査基準が微妙に異なっており、社内受入時に「シャフトとハウジングの嵌め合い実寸」を毎ロット手作業で再検証する必要があり、検査担当者の工数を大きく圧迫していました。結果として、注文〜組立完了までのリードタイムが想定より約 1.5 倍に伸びていたとのことです。
2PPM 品質保証要件への対応負荷
最終製品が医療機器ということもあり、客先からは PPM オーダーでの不良率管理と、ロットごとの寸法エビデンス・トレーサビリティ提出が求められていました。協力会社ごとに検査記録のフォーマットや測定機の校正履歴がバラバラで、クライアント様側で再集計と書式統一を行う必要があり、品質保証部門の負担が常態化していました。新規ロットを増産しようとすると、まず書類仕事から進めなければならず、生産能力増強の足かせになっていたという状況です。
3仕様変更時の連絡コストと変更点見落としリスク
年に数回発生する図面改訂の際、A 社・B 社・C 社それぞれに同じ改訂連絡を送り、変更点反映の確認を取り直す必要がありました。協力会社が増えるほど、改訂版図面の取り違えや一部反映漏れのリスクが上がり、過去には旧版で 1 ロット作られてしまい全数手直しが発生した事例もあったとのことです。
当社の取り組み
初回ヒアリングから量産安定までの約 6 ヶ月、次の 4 ステップでクライアント様の工程と品質を一緒に整理させていただきました。
切削・板金・治工具を含めた工程一体化のご提案
最初に図面 3 点と既存の検査記録一式を拝見し、当社で受け持つことで実現可能な工程範囲を整理。シャフト切削、ハウジング板金、組立用治具製作、組立、寸法検査、梱包・出荷までを単一の窓口で対応する見積りをご提示しました。窓口を 1 本化することで、改訂連絡・進捗確認・受入検査の重複工数を削減できることを、現状フローと並べた比較表でご説明しています。
専用治工具・検査治具の新規製作
量産安定とロット間ばらつきの抑制を目的に、組立用の位置決め治具と、組立後の嵌め合い確認用ゲージを社内で新規製作。検査治具側にもダイヤルゲージ取付座を設け、組立工程の作業者が手元で寸法異常を一次検知できる構成にしました。治具の図面・写真・運用手順書はすべて電子化してクライアント様にも共有し、客先監査時にもそのまま提示できる形にしています。
三次元測定機による寸法保証の標準化
精密シャフト側は重要寸法 6 箇所を三次元測定機(門型タイプ・想定)で全数測定、板金ハウジング側は重要寸法 4 箇所を初品+ロット抜取で測定する運用を策定。測定プログラムを部品ごとに用意し、別オペレーターが測っても同じ結果が出るよう、測定手順と判定基準を文書化しました。校正履歴は測定機ごとに台帳管理し、客先要求に応じてエビデンスを提出できる形にしています。
出荷時のトレーサビリティ電子化
個々の出荷ロットに対して、材料ミルシート、加工日時、加工機・オペレーター、検査結果(測定値)、組立担当、出荷日を 1 件のレコードにまとめて社内システムに記録。出荷時には製造番号付き納品書と、ロット単位の寸法成績書(PDF)を電子納品しています。クライアント様の品質保証部門で集計し直す必要がなくなり、客先提出書類の作成工数を従来比で大幅に圧縮できる構成にしました。
取り組みの成果
量産開始から約 6 ヶ月時点で、クライアント様と一緒に振り返った主要 KPI です。いずれも目安・想定の範囲ですが、当初の課題に対して定量的な改善傾向が出ています。
※ いずれの数値も当該案件の前後比較の目安・想定値です。ロット規模・図面難易度・要求公差・客先側の検査体制によって改善幅は変動します。
品質保証への取り組み
本案件では、医療機器という最終用途を踏まえて、工程内検査・初品検査・最終検査の 3 層で寸法と外観を担保。検査記録は電子化し、製造番号で個体ごとに追跡できる構成にしました。
工程内検査
加工オペレーター自身が、加工後に重要寸法をハンディ計測器で全数 or 抜取確認。異常値を検知した時点で工程を止め、後工程に流れる前に再加工・除外判断ができる仕組みです。
- マイクロメータ・ノギスでの寸法確認
- 嵌め合いゲージでの実寸チェック
- 異常時はその場で工程ストップ判定
初品検査
ロットの先頭品については、検査担当者が三次元測定機で全重要寸法を測定し、図面公差に対する余裕度(クリアランス)を記録。以降のロット流動の判定基準とし、量産中の寸法変動を早期に検知できる体制にしています。
- 重要寸法 全 6〜10 箇所の三次元測定
- 初品成績書を作成し社内承認
- 承認後にロット本流動を開始
最終検査
出荷前のロット最終検査として、寸法は抜取で再測定、外観は別オペレーターによる目視ダブルチェック。同梱物・梱包形態・ラベル表示まで含めてチェックシートに従って確認し、判定者の捺印をもって出荷可とする運用です。
- 抜取寸法測定(AQL 想定で運用)
- キズ・打痕・腐食痕の目視ダブルチェック
- 同梱物・ラベル・梱包形態の最終確認
検査記録の電子化 + 製造番号管理
L1〜L3 すべての検査結果は社内システムに電子記録し、製造番号で個体ごとに追跡できる構成にしています。万一、客先で不適合が発生した場合でも、製造番号からロット・加工日・加工機・オペレーター・検査結果まで遡れるため、原因切り分けと是正対応のスピードが上がりました。客先監査・内部監査の際にも、紙の検査表を探す必要がなく、システム上で当該ロットのエビデンスを提示できます。
担当者からのコメント
医療機器分野は「測れていれば良い」ではなく、「どの個体が、いつ、誰によって、どんな結果で測られたのか」までを残しておくことが信頼の土台になります。本案件でも、最初の 1 ヶ月は治具と検査プログラムの作り込みに集中させていただき、量産が始まってからは現場側に余裕を持って回せる体制を意識しました。
特に意識したのは、現場の加工オペレーターが「自分の工程で品質を守れている」という手応えを持てるようにすること。L1 の工程内検査で異常を早期にキャッチできる治具を入れたことで、後工程に流れてしまう手戻りが減り、結果としてクライアント様の客先 PPM にも良い形で反映されました。同じ業界・同じような工程分散にお悩みのお客様には、まず工程を 1 つに束ねるところから一緒に考えさせていただければと思います。
関連事例 / サービス
本事例で扱った技術や課題と関連する、他の事例・サービスページもあわせてご覧ください。